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神戸地方裁判所 平成3年(わ)782号 判決 1992年12月03日

国籍

韓国(慶尚北道達城郡論工面渭川洞一九五番地)

住居

兵庫県西宮市津門仁辺町五番二三号

会社役員(パチンコ店等経営)

松村敏雄こと 沈基弼

一九三五年三月一四日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官巌文隆及び弁護人尾鼻輝次(主任)・同細谷明・同豊島時夫各出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一〇月及び罰金五〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、大阪市西淀川区佃三丁目六番三号ほか二か所において、「千船会館」等の名称で遊技場(パチンコ店)三店舗を経営するなどしていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て

第一  昭和六二年分の総所得金額は一億二二五一万六九七円で、これに対する所得税額は六五三四万七七〇〇円であるにもかかわらず、売上の一部を除外するなどの行為により、総所得金額のうち、四八九七万七三七三円を秘匿した上、昭和六三年三月一五日、兵庫県西宮市江上町三番三五号所在の所轄西宮税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額は七三五三万三三二四円で、これに対する所得税額が三五九九万三三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額六五三四万七七〇〇円との差額二九三五万四四〇〇円を免れた

第二  昭和六三年分の総所得金額は一億九七六一万二六六〇円でこれに対する所得税額は一億八七四万一四〇〇円であるにもかかわらず、売上の一部を除外するなどの行為により、総所得金額のうち、一億九六一万六三五四円を秘匿した上、平成元年三月一五日、前記所轄西宮税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額は八七九九万六三〇六円で、これに対する所得税額が四三〇〇万三六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億八七四万一四〇〇円との差額六五七三万七八〇〇円を免れた

第三  平成元年分の総所得金額は二億四六三七万六〇四二円で、これに対する所得税額は一億一八三九万六五〇〇円であるにもかかわらず、売上の一部を除外するなどの行為により、総所得金額のうち、一億六七九五万五二〇四円を秘匿した上、平成二年三月一五日、前記所轄西宮税務署において、同税務署長に対し同年分の総所得金額は七八四二万八三八円で、これに対する所得税額が三四四四万五〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億一八三九万六五〇〇円との差額八三九五万一五〇〇円を免れた

ものである。

(証拠の標目)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書三通(検甲一号は判示第一、検甲二号は判示第二、検甲三号は判示第三の各事実について)

一  大蔵事務官作成の所得税確定申告書謄本三通(検甲四号は判示第一、検甲五号は判示第二、検甲六号は判示第三の各事案について)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書資料(検甲七号)

一  大蔵事務官作成の査察官調書一四通(検甲八ないし二一号)

一  西鼻實(二通)、松村隆こと沈隆(三通)、阪口鞆美(六通)及び松村次雄こと沈次雄(五通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書(検甲二三・二四・二九ないし三七・三九ないし四三号の一六通)

一  阪口鞆美及び沈次雄の検察官に対する各供述調書(検甲三八・四四号)

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書一七通(検甲四六ないし六二号)

一  被告人の検察官に対する供述調書(検甲六三号)

一  被告人の当公判廷における供述

(法令の適用)

罰条 所得税法二三八条一・二項

刑種の選択 懲役刑及び罰金刑併科選択

併合罪の処理 刑法四五条前段、四七条本文・一〇条(懲役刑につき最も重い判示第三の罪の刑に併合罪加重)、四八条二項(罰金刑につき各罪の罰金額を合算)

労役場留置 刑法一八条(罰金刑につき)

執行猶予 刑法二五条一項(懲役刑につき)

(量刑の事情)

本件は、パチンコ店三店舗を経営する被告人が、三年間に合計約一億八〇〇〇万円の所得税を脱税したという事案である。その脱税額は多額で、脱税金額・脱税率はともに年々増加していること、その脱税の方法は、被告人自ら実際所得金額を概ね把握した上、その年の売上除外額を決定し、部下に売上日計表などの原始帳簿類を書き換えさせるなどした悪質なものであることなどに照らすと、その犯情は軽視することができない。しかし、脱税率は三年間を平均して六一・二%であって、この種多額脱税事案としては比較的低率であること、当然のこととはいえ、修正申告を済ませ、本件公訴を提起される頃までの早期に本税・重加算税・延滞税など及び住民税・事業税など国税・地方税の全てを納付したこと、納付した金額は正当に申告した場合と比較して格段に多額となり、また刑罰の軽減を願って宝塚市や日本赤十字社に合計一〇〇〇万円の覿罪寄付をし、更には多額の罰金を科され、懲役刑の刑期如何ではパチンコ営業の許可が取消しになると恐れるなど、脱税が経済的に割に合わないことの自覚が十分できたと認められること、古い些細な罰金の前科が一犯ある以外には前科前歴がなく、韓国人社会で指導的役職に就いている善良な社会人であることなど、被告人のために酌むべき事情を含め、諸般の情状を斟酌すると、主文の量刑が相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中明生)

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